Organ-on-a-chip ー 手のひらサイズの臓器モデル

こんにちは。最近は、修論発表を一カ月後に控え実験ばかりしています。こんなものを書いていていいのか、と思われるかもしれませんが、実験って意外と待ち時間が長かったりするのです。今は、1時間に一回サンプルを少し動かす操作×6の最中です。

ということで、Twitterで流れてきて知った、Havard大学のWyss研究所が「統合失調症のモデルをチップ上に作製した」というニュースと、それに関連して未来の医療を変えるかもしれない”Organ-on-a-chip”というコンセプトについて書きたいと思います。

 

チップとは、PDMSという材料でできた、手のひらサイズの小さな容器のことです。

Harvardの研究者は、統合失調症に関わる脳の異なる部位の細胞をチップの中に培養して、病気のモデルを作製しました。

 


Brain-on-a-chip


病気のメカニズムを調べたり、薬の効き目を調べたりする方法には大きく分けて二つあります。

一つ目は生き物を用いる方法。(例:マウスや人間)

マウス

これは専門用語でin vivo(生体内)な方法と呼ばれています。現在市販されているほとんどの薬はこの方法で効き目が確かめられ、多くの命を救ってきました。

しかし、この方法は薬の効き目のような「アウトプット」を評価するのには適しているけれども、病気のメカニズムの解明のような「因果関係」を明らかにするのには非常に手間がかかるという欠点があります。

 

20120828-singularity

 

例えば、統合失調症という病気の患者の脳を見ると、海馬前脳全皮質偏桃体という部位の活動に異常があったり、この三者間のコミュニケーションがうまくいっていないことが分かっています。しかし、これが統合失調症という病気の原因なのか、結果なのかはわからないし、原因だとしてもどのように統合失調症を引き起こしているかもわかりません。(そもそも脳の機能自体がわからないことだらけなので仕方がありません。)

 

二つ目の方法はin vitro(生体外)な方法と呼ばれるものです。

今回Harvardの研究者がとった方法はこちらで、「注目した現象や機能だけをを取り出してきてそれを生体外に作ってしまおう」という発想です。こうすれば、生体内に比べて因果関係がはっきりします。彼らはこれを“Brain-on-a-chip”と呼んでいます。

今回発表された研究では、海馬(hippocampus)、前脳全皮質(prefrontal cortex)、偏桃体(amygdala)という、いずれも統合失調症患者において異常がみられる部位由来の細胞を、三つの部屋に分かれたチップ内にそれぞれ培養し(細胞培養についてはバイオを学ぶ大学院生の事情参照)、お互いにコミュニケーションさせました。

簡単に結論だけ書くと、筆者らは、脳の異なる部位間のコミュニケーションがその機能に大事であるとし、”Brain-on-a-chip”でそのコミュニケーションを再現し脳のシンプルなモデルを作製することで、病気の原因の解明等に使えるのではないかと述べています。

実験方法の概要。脳からとってきた三種類の細胞を生体外でコミュニケーションさせる。

実験方法の概要。脳からとってきた三種類の細胞を生体外でコミュニケーションさせる。(論文より)

 


Organ-on-a-chip ーチップ上の臓器


 

“Organ-on-a-chip”は脳以外の様々な臓器でも行われています。

例えば、Lung-on-a-chipでタバコの影響を評価したり

 

3Dプリンターで心臓を作る Heart-on-a-chip

 

あれ?タバコの影響の評価はモデル生物を使えばいいじゃない?

そう思ったあなた!

実は、病気の原因解明だけでなく、Organ-on-a-chipで作ったモデルで薬の効果を調べるメリットもあります。まず

 

・モデル生物を使わなくてよいので、動物愛護的な観点でやさしい。

さらに

・マウスはヒトと同じ哺乳類とはいえ、薬の効き目がヒトへは異なることがある

というのも重要な点で、その点organ-on-chipはヒト由来の細胞から作れば

 

・ヒトへの薬の効き目が一発でわかる

ことが期待されます。

もっと言うと、例えばある個人から採取した細胞からiPS細胞を作り、目的の細胞に分化させ、チップ上に臓器を作れば、

 

その個人への薬の効き目がわかって、個人個人にあった薬を処方できるかもしれない

なんてことも言われています。(これは個別化医療と言われています)

そんなハイテクなことができる時代になるのか!と感動するかもしれませんが、Organ-on-a-chipの今後の課題としては、

・細胞を増殖や分化させるため分子は非常に高価であるため、実用化するためのコストが高い

・in vitro(生体外)で作ったシンプルな病気のモデルでの知見や診断が、どこまでin vivo(生体内)に適応できるのか未知数である

 

といった点があるでしょう。

“Brain on a chip”の論文解説はWyss研のホームページにも載っているので、是非読んでみてください。

ドラゴン

ドラゴンの記事を読む

参考文献

  1. https://wyss.harvard.edu/multiregional-brain-on-a-chip/
  2. Dauth et al, “Neurons derived from different brain regions are inherently different in vitro: A novel multiregional brain-on-a-chip”, J Neurophysiol (December 28, 2016) doi: 10.1152
  3. Wyss Insititute Twitter

投稿者プロフィール

ドラゴン
ドラゴン
4月から博士後期課程1年生。工学部で生命科学の研究をしています。
化学・生物全般に興味があります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です