コロンビア大学院生のとある1日(勉強編)

どうも! NYにくるりを普及させたい Sheva です。
ここPalpunte.comでは、最新科学記事だけでなく、国内外の大学院生のリアルな生活についてもお届けしていきます。ということで今日は僕が所属するアメリカはNY、コロンビア大学の理系の大学院の生活について紹介します!
 
「アメリカの大学院ってどんな感じなの?」
「なんかアメリカってめっちゃノーベル賞出てるけど、日本とどう教育が違うんだろう?」
数年前、僕もそんなことを思いたち、ウェブ上で情報を集めはじめました。
でも、短期留学や語学留学、おもに会社や官庁から派遣されていくMBAなどの情報はたくさんあるものの、
科学の学位留学(修士、博士をとる)の情報というのはなかなかありませんでした。
あれから2年、僕はアメリカ大学院受験をし、
ニューヨークにあるコロンビア大学大学院, 進化生態学専攻(Web Siteがかっこいい!)で修士号を取るべく勉強しています。
こちらにきてから日本の教育システムとは全く異なるアメリカ大学院の実際に驚く毎日です。
コロンビア大学基礎情報

コロンビア大学と聞いて南米の大学?と思ったそこのあなた。これを機会にコロンビア大学のことを知ってくださいね!
コロンビア大学は、全米で5番目に古い大学で、アイビーリーグという東海岸の名門校群の一つです。
過去ノーベル賞受賞者を101人輩出しており(ちなみに東大は過去6名(wiki))、有名な卒業生としてはオバマ大統領が挙げられます。
場所はニューヨーク、マンハッタンから電車で15分ほどの都会にあり、ブロードウェイやウォール街といったおなじみの観光スポットからもすぐです。
勉強とエンターテイメントが隣り合わせのコロンビア大学にお越しの際はぜひshevaまでご一報ください!

参考:日本語wiki / 英語wiki

そこで!今回はアメリカ大学院とはどんなものなのかを、とある1日に焦点を当てて紹介しながら
アメリカと日本の大学院の日常の違いについて考えたいと思います。
東大のバイオ専攻の大学院生の生活が気になる人はこちら:バイオを学ぶ大学院生の事情
東大の機械学専攻の大学院生 の生活を見てみたい方はこちら:機械と格闘する東大生の日常
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(コロンビア大学 @ New York)
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8:00am
寮の一室にて起床。シャワーを浴びたのち、朝食のベーグルとバナナをコーヒーで胃に流し込む。
教科書の予習をしつつ、教室へ早足で向かう。大学へはあるいて5分だ。

Point1 寮生活


  • 基本的にアメリカの学生は寮に住んでいる。これは大学学部時代からそうらしく、実家から通っているという人は非常に少ない。このため大学のクラスやサークルとは別に、寮のコミュニティができる。みんな初対面でも異常にフレンドリーなので、世界中から来たひとと、学問分野を超えたお隣さん友達が簡単にできる。
  • 寮暮らしの大変なところは、本当にいろんな文化のひとが(わりと無秩序に)暮らしているので、文化の違いによる摩擦も多いということだ。多くのひとはルームメイトを持つが、ルームメイトが自分の生活スタイルと合わなかったり、性格が合わなかったりすることによるストレスの話もよく聞く。ひとまずは積極的に色々な文化を知るという意味でポジティブにとらえつつ、適当な距離を取れるように調節することが必要だろう。
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(寮の食堂)
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 (通学路。建物が美しい!ちなみにこれは神学科の建物。)
9:00am
“進化学”の授業開始。
今日は人類の歴史とDNAを使ったその解析についてだ。
現在「人間」とよばれ世界中に分布している生物種は、およそ5万年前アフリカにいた集団が起源とされている。アフリカを出発した人類祖先は、ヨーロッパ・アジア・アメリカとその分布を広げたそうだ。
分布を広げる過程で、人類はさまざまな種との生存競争に打ち勝ってきた。競争相手の中には、ネアンデルタール人(Neandelthal)やデニソワ人(Denisova)といった、人類と共通の祖先を持つ種も含んだ。
ネアンデルタール人・デニソワ人はもう存在しない。そう、人類に滅ぼされたのだ。そして近年の研究結果はさらに驚きの事実を暴いた。
人類とネアンデルタール人のDNAを比べた結果、人類のDNAの一部にネアンデルタール人のDNAが混在していることが分かったのだ。
これが何を意味するかわかるだろうか?
人類は、ネアンデルタール人と競合し滅ぼす過程で、ネアンデルタール人と交配していたのだ!
そしてその子孫はそのDNAを代々伝えながら現在まで生き残ることになる。。そう、我々のDNAの中にネアンデルタール人が生きているのだ!
2時間の授業は講義に始まり、途中から教授を含めた学生同士の議論へと展開していった。なぜ人類はこれほどまでに生物として繁栄したのか?人類の移動ルートはどのような仮説検証をすれば証明できるか?人類とネアンデルタール人はそもそも違う種なのだろうか?

Point2 議論、議論、そして宿題


 

  • アメリカの大学院の授業は基本的に少人数で(~20人)、講義と同じくらいの頻度で議論形式の授業が行われる。はっきり言って、必ずしもいい議論になるわけではない。これはアメリカではとにかく発言することが尊重されるため、比較的安易な発言も許されるからだ。皆かなり好き勝手自分の意見を展開する(笑)。しかし、主に教授のリードによってはじめ散らかっていた議論は次第に収束していく。議論好きのアメリカ人と意見を交わすのは、楽しい。
最後に教科書と複数の論文合わせて100ページ以上のリーディングとレポートの宿題(明後日まで)が課され、生徒の阿鼻叫喚の中、授業終了。
  • アメリカの大学院の宿題はとっても多い。多すぎて終わらない。一説には、とても一人では終えられない量の宿題を出すことで、仲間同士で協力する(=Study Groupを作る)習慣をつけさせるのが狙いとか。
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(教科書、論文、ノート、そしてコーヒー。。)

Point3 研究費と英語


 

11:00am
“論文プロポーザル”のクラス開始。
10人前後のクラスで、一人当たり毎週3ページ前後の研究計画書を書き、それぞれの記事について議論を行う。
アメリカでは、たとえ学生であっても、そしてたとえ大学院1年生であっても、自分の研究費は自分で取ってくることが強く勧められる。自分自身で研究の内容を考えることはもちろんだが、さらに研究費獲得のためにプロポーザルを書いて、国の研究支援機関に自分の研究内容の概要やその重要性をつたえ、お金を出すよう説得する(日本で言えば、教授が”科学研究費”のプロポーザルを書くのに相当するだろうか)。
このスキルは、研究者を目指す者にとっては必須だ。研究というのはいつもお金がかかるものだが、黙っていては研究費は降りてこない。お金を出す側に「この研究はお金を投資する価値がある」と思わせなければならない。学生が書いてきた論文に対して、教授は様々な角度からツッコミを入れる。専門家以外のひとにもわかるようなインパクトがある研究か。どこまで具体的に研究の計画を述べるべきか。研究のオリジナリティはどこか。はじめは拙い皆のドラフトも、徐々に洗練されたプロポーザルになっていく。
  • 実をいうとこの授業が、僕がもっとも苦労している授業である。苦労している理由は幾つかあるが、ここでは英語について話そう。僕は日本人の中ではそれなりに英語ができる方だったと思うが(帰国子女でない中で)、ぶっちゃけいまのクラスでぶっちぎりで英語ができない(クラスの他のひとはアメリカ人とカナダ人)。どれだけぶっちぎりかというと、ドラゴンボールで言えば悟空とヤムチャくらいの差がある。スラムダンクで言えば流川と木暮くらい。ドラクエで言えばはぐれメタルとぶちスライムくらい。(しつこい)
  • 日本人の英語力については様々な議論があるが、やはり日本人の英語力というのは平均的に低いと言わざるを得ない(あくまで個人の感想)。これは同じアジアの人たちと比べても差があり、特にアウトプット(Speaking, Writing)の力の差は歴然だ。このライティングの授業でも、学生たちはただやりたいことを書くのではなく、より説得的になるように適切な単語や構文を選んでくる。そのような総合的な意味での英語力が、僕には(そして拡大解釈が許されるなら、日本全体には)足りないようにひしひしと感じる。これは研究者を目指す人に限らず、将来世界を舞台に仕事がしたいと思う人は認識すべき事実で、英語をいくら勉強しても損はないと、僕からはアドバイスしたい。

Point4 しばふ!


1:00pm
今日の授業が終わり(今日は授業は午前だけ!)、校内の芝生でクラスメイトと昼食。リラックスしつつ、オバマ大統領もかつてここでピザ食ってたのかなーと妄想する(彼もコロンビア大学卒)。午後は怒涛の自習が待っている。。。
  • コロンビア大学には芝生が沢山ある!日光浴するひと、ヨガするひと、本を読むひと様々だが、よく手入れされてて綺麗である。(東大の三四郎池も神秘的で好きだった)

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(晴れた日は芝生がいちばん)

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(写真は大地くん訪問時のもの)

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どうでしたか?日本の大学や大学院とくらべてどうでしょう?ご意見お待ちしてます(がんがんコメントしてね!アメリカ大学院受験相談もwelcome!)
次回のアメリカ大学院生生活編では、この日の午後の様子を描いてみます。コロンビアの図書館、大学の周りのレストラン、そしてパーティ….( `ω´)
乞うご期待!
参考:
コロンビア大学大学院のページ:Columbia University Graduate School of Arts and Sciences
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コロンビア大学院生のとある1日(勉強編)」への6件のフィードバック

  • ネアンデルタール人のDNAが人類に残っているのならば、進化学的にいえばどういう瞬間にネアンデルタール人が滅びたと言うんですか?
    あとヤムチャくんと木暮くんが闘ったらどっちが強いと思いますか?

    • コメントと質問ありがとうございます!特に質問はとてもいいところをついています。進化学的に言うと、”ある種の絶滅”はその種の個体が一個体ものこらず死ぬことを言います。なので、ネアンデルタール人と現在の人類の直系の子孫が違う”種”だと考えるなら、最後の一人のネアンデルタール人が死んだ時になります。
      それでは、ネアンデルタール人と、同時期に存在した現在の人類の祖先は違う種なのでしょうか?実は、そうとも言い切れないのです。「種とは何か」という定義はいくつかありますが、最も有力なのは「互いに子供を残せない2つの集団は2つの違う種」というものです(生物学的種概念といいます)。これによれば、ネアンデルタール人と人類祖先は別種であるとは言い切れません、というのも彼らは子供を残してしていたのですから!
      ただ、体や顔の形態が明らかに違うことから、人類祖先と完全に同種-あるいは同じ集団とは言えないのです。ということで今回はネアンデルタール人という種が「絶滅した」というよりもネアンデルタール人という「(集団が)滅ぼされた」と書くことにしました。
      長くなりましたが、すこし答えに近づいたでしょうか?

      あと、木暮くんの積み重なった努力の3年間はヤムチャを凌駕すると思います。

      お返事が遅くなり申し訳ありません!
      Sheva

  • Shebaさん、
    興味深く読ませていただきました。学部は東大理生(動植物つまりB系)を卒業し、修士も東大のバイオ系をとった者です。
    Shebaさんとも、おそらく量子コンピュータをやっている共通の友人をもち前から、コロンビア大学院に行く人がいると伺っておりました笑

    東大の理生では、学部時、研究計画作成はやらなかったのと、大学院のメディカル情報生命でも、大学院で研究計画作成の授業はありませんでした。
    授業のシラバスを見ている限り、東大生命系で、研究のproposalを書くような授業はない気がします。
    日本では、自分で勝手にproposalづくりを学ぶしかないのだと認識しています。
    そこが日本とアメリカの大学院の大きな違いだと思います。
    UCSFの生命系で教鞭をとっていた方からも、研究のproposalを書く授業の存在を以前教えていただきました。
    分野によっても違うと思うのですが、たぶん生命科学系では、アメリカでは、英語が読める人が多いから、過去の論文をたくさんあさってproposalを書くということが出来るけれど、日本においては、英語の壁(学生も教員も他分野の英単語はわからない)こと、そもそも、proposalを書く練習を受けてきた教員が少ないことなどが、そのような授業を難しくしていると想像しています。
    基本的に日本の生命系では、大部分の学部生大学院生は、自分で新しいテーマを見つけるという超難関は、クリアできなくて、配属先の研究室の上司のテーマを分けてもらって、その研究をやり、その研究をやることの意義・手法の選択については、完全に上司の受け売りのケースが多いように感じます。実力的な現実性とその方が、短期的にいいoutputになり、研究室側も学生側もhappyになるからだと思います。
    あとは、大学院生の間に(特に修士課程)申請できる研究費はないこともそれを後押ししているように思います。

    できる人は、勝手に自分で論文を読んで、研究テーマを見つけてきているけど、大部分の学生は自分の頭で考えずに完全に上司の受け売り、というのが実際だと思いますし、それが日本のバイオ系アカデミア界のoutputの最大化に役立っているように感じます。

    そもそも論文を読むための授業でさえちゃんとしたものがないので、論文をちゃんと読めることを前提にする、research proposalの作成の授業は難しいのだと思います。

    僕は実際に自分で論文を読んでテーマを決め研究しようとしてきましたが、いろいろむずかしさに直面しました。
    まず、論文を深く理解するための基本的知識が大きく書けていることにより、論文をあさっても、理解できることに限界があること、次に、論文をいくつか読んで、新しいproposalを作っても、その1週間後くらいに、その内容の論文が出るくらい現在の生命科学系研究の競争が激しいこと。実際に自分のやりたいことを見つけて、そのproposalを作ったとしても、ラボ側としては、その人が本当に研究できるかどうかわからないから一人で勝手にやらせるにはリスクがあること。実際に、生命系のラボでは、上の人が直に教えないとできないことが多々あって、その研究室で誰も指導できないタイプの研究に関しては、機器や試薬の不足などで、できるのかできないのかわからない・かかる予算が読めないなどから、普通のラボとしては、とりあえず誰かの下につかせて、ある程度研究できるか、研究に向いている人か、論文を読めるか、判断してから、そのうえで、新しいことをやりたいと言い出したら、やらせてみるのだと思います。

    日本の大学が教育システムとして、proposalの書き方を教え、実際にそれを実行できるようにするにするには、英語教育や論文の読み方教育をはじめとして、クリアしないといけない課題が多すぎると思いました。

    長文でまとまりがなくすみません。

    • 重厚なコメントありがとうございます。
      色々と問題は山積みだと思いますが、質問者さんの質問の中でも最も重要と思われる「学生が自分でテーマを決めて、金を取ってくる」というところについての日米の違いについて考えたいと思います。
      まず、英語はお気付きの通り、生徒だけの問題ではなく、教員の問題でもあります。東大の教授ですら英語校閲を使うのが当たり前・スピーキングはもってのほかという状況の中、他の大学も推して知るべしという現状があります。言語に関係なく論理が科学者を科学者足らしめるというのは真実ですが、一方で科学の共通言語は英語であるという事実に早急に向き合わなければなりません。
      ただ、テーマを自分で見つけて研究を進めていく、ということは実は英語ができるアメリカ人でも決して簡単なことではありません。質問者さんがおっしゃるように、学生はまだまだ知識も足りないですし、手元にある技術も限られています。生物系の研究室で、教授やポスドクの研究の派生版を引き継ぐのが主流というのは、アメリカも同じです。
      僕が違うかなあ、と思うのは「チャレンジして失敗することが許される雰囲気」です。
      アメリカの大学院には生物系の研究でも小さな独立した仕事を自分でやっていくチャンスが多くあります。少なくともコロンビア大学の周りには、主に民間の寄付団体などが設立した少額の研究費(6万~10万くらい)のチャンスが数多あります。学生は、未熟ながら、そして指導教官に支えられつつ、「自分の仕事」としてプロポーザルを書きます。はっきり言って東大生が書けばもっといいプロポーザルをかくだろうに、と思うようなプロポーザルもいっぱいありますが、もしそれが選考に落ちたらそこから学んでいけばいいのです。このように「失敗して当たり前じゃね」という雰囲気があるのはとてもありがたいですし、少額のグラントへのアプライを通してまなぶことはたくさんあります。
      僕はアメリカも日本も、どちらがベストというのは言い切れないと思います。アメリカは失敗を許す分、博士号獲得に7年とか8年とかかかるのもざらだといいます。その点日本はちゃっちゃと結果を出して5年で効率よく出ていくので、アメリカ人からしたら羨ましいかもしれませんね笑
      でも、自分の研究を自分で考えて進めていくのは2つの点で重要だと思います。1つ目に、科学者として独立するときには、自分でコンセプトから実際まで一律して考える力が必要であること。そして2つ目に、自分で考えた研究がうまくいったほうが楽しいこと(個人差あり)。
      英語ができない、自分にできることが少ない、という状態を憂い対策を考えるのも大事なのですが、「自分の研究」を楽しめるような教育体制がもっと充実すれば、平均的には世界基準から見てもだいぶ優れている(という個人的な感想)日本人の頭脳をもっと効率よくoutputに変換していけるのではないでしょうか。
      改めて、質問ありがとうございました!そして、お返事が遅くなって申し訳ありません!

      Sheva

  • こんにちは。
    元気でがんばってるようですね。
    寮の様子が良くわかります。
    新天地でがんばってください。
    修のお家にもまた遊びに来てね。

    • ありがとうございます!有り余るほど元気があります。そちらもお体に気をつけて! パルプンテの応援も引き続き宜しくお願い致します!

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