巨大津波の科学(2)〜津波のうまれかた

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こんにちは、をさむです。

「津波の科学」連載。第一回の記事では「津波ってそもそもなんだ?」とテーマで、津波が波浪とどう違うか、という観点から考え、「波長の大きい波」が津波であることに触れてきました。

では東日本大震災ので我々が見た、あの巨大津波はどのようにして発生したのでしょうか?

そして時に、大きな揺れを感じなくても、津波はやってくるんです。。。

そんなことも含めて、津波の生まれかたについて考えていきましょう。

 


第二回:津波のうまれかた


 

第二回は、津波はどうして発生するのか?というテーマ。

まず大前提として、津波に限らず水の波は海水面が隆起したり、沈降することで発生します。この海水面の隆起・沈降が、波として広がっていき、海岸に押し寄せます。(津波が伝わるメカニズムについては次回のお楽しみ)

前回の記事でお話したように、津波とは非常に長い波で、その波長は数100kmにも及びます。では、どうしてこんなにも広範囲に広がる海水面の隆起・沈降はどのようにして起こるのでしょうか?

 


二つの「地震」?


みなさんもご存知の通り、何と言っても津波の最大の原因は地震です。東日本大震災でも、最大震度7の揺れの後に大きな津波が海岸部に到達しましたね。過去を見てもやはり巨大な地震によって、巨大な津波が発生することが圧倒的に多いのです。

しかしここで一つ注意しなければならないことがあります。それは馴染み深いこの言葉。「地震」という言葉です。

私たちが日常的に用いる地震という言葉は、実は二つの異なる現象を指しています。

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一つは、地下で起こる現象そのもの、つまり断層(岩石の割れ目)が破壊する、断層運動現象を指す「地震」です。例えばニュースで流れる、「〜沖合**kmで地震が発生しました」という時には、まさに断層が動いたその現象のことを指しているわけです。

もう一つは、地面の振動を表す「地震」。これは、正確には「地震動」と言います。カタカタカタ….という振動を感じ、緊急地震速報がなると、「地震がくるぞ!」と警戒しますね。しかし、この時にはすでに断層運動は発生していますから、僕たちは「地震動が来るぞ!」という意味で言葉を発しているわけです。

非常に簡単なことですが、地震という言葉が、「断層運動」と「地震動」の二つの現象を指すことがあると意識しておくことは、津波の発生を考える上で重要になってきます。

 


断層運動で津波は起こる


では本題、津波の話に入りましょう。

津波を発生させるのは、どちらの「地震」でしょうか?

2011年の東北地方太平洋沖地震を例にとって考えていきましょう。

この地震が発生したのは、プレート沈み込み境界と呼ばれる、巨大地震が過去にも繰り返し発生している場所で起こりました。

プレートとは、地球を覆う数十の大きな岩盤の事です。プレートは年間数〜数十センチの速さで、プレート同士、相対的に動いています。プレート同士が衝突するところでは、重い岩盤である海洋プレートが軽い大陸プレートの下に沈み込み、海溝を形成します。日本海溝、南海トラフも沈み込み境界の一種です。

このような沈み込み帯では、海洋プレートが沈み込みながら、大陸プレートを摩擦で引きずり込んでいくため、大陸側の地下にはどんどんひずみがたまっていきます。

大陸プレートがひずむ。

しかし、いつまでもプレートは沈み込むことはできず、このひずみが限界を超えると、プレート境界で断層運動を起こします。これが海溝型巨大地震の発生メカニズムです。

この時、断層運動は地下だけでなく、海底面を大きく変形させます。プレート境界で大きく動き、変形した海底面は、海水を持ち上げ、あるいは沈めます。この隆起・沈降のパターンが津波を生むというわけです。

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断層運動によって津波が発生する。

東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震のとき、岩手県沖から茨城県沖まで幅約200km、長さ約500kmの範囲で断層破壊が起こったと考えられています。特に、海溝寄りの地下浅くまで断層破壊が進んだことで、大きな地殻変動が発生し、巨大な津波を引き起こす一因となったようです。観測でも、海溝寄りの海底面では、東南東方向に約50m、上方に約7~10 m移動していたことがわかっています。

 


揺れがなくても津波はうまれる?


こう考えると津波を発生させるのは「地震動」ではなく、「断層運動」による地殻変動なのです。

さて、ここで読者の皆さま方の頭には一つ疑問が浮かんでいる事でしょう。

なぜこのをさむというやつは「地震動」と「断層運動」をここまで強調して区別するのか、と。

理由は一つ。
大して揺れなくても津波は起こります
という事をお話ししたかったからなんです。

これまでの話を振り返ってみると、津波を引き起こすのは海底での大きな地殻変動であり、「地震動」つまり揺れの大きさとは直接関係はないわけです。

もちろん、大きく断層が破壊すれば大きな地殻変動が起こり、一般的には大きな地震動を伴います。ですが、私たちが感じる地震動は小さく、大きな地殻変動を起こす変な地震があるのです。。。

 


「津波地震」


その地震は、「津波地震」と呼ばれます。

津波地震とは、各地で観測される地震動から推定されるよりも大きな津波を引き起こす地震のことです。ひっそりと背後から近づき、突然襲いかかるいやなやつです。

この津波地震、様々な原因で起こりますが、ここでは断層運動によるものについてお話します。

今から100年以上前のこと、1896年に東北地方の三陸沖で発生した「明治三陸地震」は、津波地震として知られています。

この地震が発生した時、観測された震度は最大4と、さほど大きくなく、多くの人が気にも留めなかったと言います。

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明治三陸沖地震(出典:Wikipedia

しかしその後、巨大津波が街を襲いました。この時の津波は、最大38.2mの高さまで陸上を遡る凄まじいもので、2万人を超す人が命を落としたのです。

なぜ、大きな地震動を伴わず、巨大な津波が発生したのでしょうか?

それは、ゆっくりとした断層運動が原因であると考えられています。

この地震、海溝寄りの地下浅くで断層破壊が起こったマグニチュード8を超える程の巨大地震でした。しかし、断層破壊がゆっくりと進行したことで、発生した地震動はゆっくりとした揺れになったために、強い地震動を感じることがありませんでした。

そのため、人々も津波が来るとも思いもしませんでした。そして、なんの準備もないままに巨大津波が押し寄せ、甚大な被害が出てしまったのです。

津波を地震動の大きさだけで判断することは、ときに危険です。地震速報を見る際には、規模だけでなく、地震が起こった深さに注目してください。深さが10km程度の浅い地震は、より大きな地殻変動を起こし、津波を引き起こす可能性が高くなりますから。

これまでの津波予測では、地震動の解析から断層モデルを決定し、津波を予測していました。しかし、こうした背景を踏まえ、現在東北地方の太平洋沖合では、波の高さをリアルタイムで測定する海底水圧計の観測網が設置されつつあります。地震まで現象をさかのぼることなく、津波を直接観測することで津波予測の精度を上げようという試みが、大規模に行われているのです。

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防災科学技術研究所、S-net。(出典:防災科学技術研究所NIED

 


まとめ


さて、今回の話をまとめると、

  • 津波は断層運動による地殻変動により発生する
  • 大きな地震動を伴わない、津波地震が起こることもある

ということになります。

あの日、強い揺れを感じた後に発生した津波を見て、恐怖を覚えた人も多いことでしょう。

僕たちはときに、経験というものに縛られます。そうして、巨大津波の前には、大きな揺れが必ず来るものだと考えてしますのです。

起こっている自然現象を理解することで、経験から一歩距離を置いた客観的な視点、それが科学の視点と言えますね。

さて、次回、第三回では、津波がどのように伝わるかを考えていきたいと思います!

ではでは!

をさむ

 

参考文献

巨大津波の科学(2)〜津波のうまれかた」への2件のフィードバック

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