ノーベル賞を予想してみよう!#1 「太陽系外惑星の観測」

(タイトル画像:NGC 7331 and Beyond Credit&Copyright:Dietmar Hager, Torsten Grossmann)

ノーベル賞の季節まであと少し!

今年2016年のノーベルウィークは10月3日からだそうです。それに先駆けてどの学者が受賞するのか?面白そうだし予想してみようじゃないか、という企画です。


「今年のノーベル物理学賞は、重力波が受賞します!」

…と言いたいところなのですが、重力波はこれから他のトピックと繋がってどんどん成果を増やしていくのではないかと思っています。
重力波面白いやん⁉︎という世間のウォームアップが終わるまで、ノーベル賞受賞はもう少し様子見で良いかなと。(とか何とか言って即受賞の可能性もなくはないですが笑)

 

改めまして、僕の予想は天体物理学から

ミシェル・マイヨール博士&ディディエ・ケロッツ博士

が来る! と予想します。

右がマイヨール博士、左がケロッツ博士
(引用元: https://www.eso.org, Credit: L. Weinstein/Ciel et Espace Photos)

 

ところで、受賞予想の理由に入る前に、ノーベル賞ってどのような人たちに与えられるのでしょうか。
アルフレッド・ノーベルの遺言「人類の為に最大級の貢献をした人」(というか公式な基準はこれくらいしかない?)はよく耳にしますが、その「貢献」どう評価するの?って言いたくなります。

もう少し具体的なものが無いか探してみたところ、スウェーデン王立アカデミーの副理事長(当時)のインタビュー記事を発見しました。それによれば
①新しい分野を開拓し
②社会に多大な影響を与えた

人が受賞候補となっているのだそう。今回はこの2つの条件に注目したいと思います。

また、受賞が一つの分野に偏らないような配慮、という観点からすると21世紀の天体物理分野の受賞は2002→2006→2011と4〜5年に1度のペースです。周期的にみても2016年の受賞を天体物理学から、というのはアリな気がします。


①開拓した分野 – 「太陽系外惑星の発見」


2人が行ったのは、「ペガサス座51番星b(51 Pegasi b)」という惑星の観測です。

この広い宇宙で太陽系だけが特別なはずは無く、探せば同じような恒星+惑星のペアは見つかるはずというのは昔から予想されていました。
その頃の観測方法の主流は視線速度法という、惑星の重力によって恒星の位置が僅かにずれるのを光の波長の変化で見つけるものでした。木星サイズの重い星が公転していれば検知できるくらいには観測機器も発達しているはずでした。

しかし、世界中のグループがいくら観測しても一向に惑星の証拠が見つからない。誰かが見つけたとしても他のチームの観測では確認できない、そんな時期が続きました。
終いには「木星サイズの惑星は太陽系以外には存在しない」とまで言われ始めていました。

そんな中でジュネーブ天文台のマイヨール博士と当時ジュネーブ大の大学院生だったケロッツ博士は、ペガサス座51番星という恒星の周りに木星サイズの惑星を発見しました。
この惑星、公転周期(恒星周りを1周する時間)がたった4日という”ありえない”惑星でした。太陽系では木星は12年で太陽の周りを公転します。宇宙のどこでもこれは普遍だろうと考えられていたわけです。
当初「ありえない!そんな星あるわけねーだろ」と誰もが思ったらしいですが、他の研究者による追試験が次々に成功し”ありえない”惑星の存在が確実となりました。

かくして世界初の「太陽系外惑星の発見」が成し遂げられたのです。


②与えた影響 – 「多様な系外惑星の可能性」


マイヨール博士らの観測は「太陽系の常識には到底あてはまらない多様な惑星が宇宙にはある」という衝撃を与えました。
それまで惑星が見つからなかったのは、木星サイズであれば10数年オーダーの公転周期を持つはずという”常識”があったためです。51 Pegasi bのような数日で公転する惑星の信号は見逃していたのです。
もっと多様なのだと分かったことで、次から次へと惑星が発見されていきます。

実際、51 Pegasi bのような木星クラスの質量で地球よりもずっと太陽に近いところを回るもの、恒星を2つもつもの、恒星に接近した時と最も遠ざかった時の差が25倍もあるものなど、太陽系とは全く異なる環境の惑星が宇宙にはあります。

博士らの発見以降、同様の方法を用いてこれまでに600個近くの惑星が発見されています。


第3の受賞候補者


image

現在までの惑星発見数。ケプラーの力がすごい (Credit: NASA Exoplanet Archive)

1990年以降の系外惑星の発見数は以下のとおりです。
このグラフのうち、赤色が視線速度法によって観測された惑星の数を、緑色がトランジット法による観測数を表しています。
明らかに2010年以降発見数が増加しており、特に2014年と2016年が突き抜けています。これは2009年に打ち上げられた観測衛星”ケプラー”がトランジット法によって観測した成果によるものです。

トランジット法は惑星が恒星の前を横切るときの、ごくごく僅かな光の量の変化を観測します。日食で辺りが薄暗ーくなるアレの弱い版です。惑星が恒星の手前を横切るだけで、その惑星の半径や質量、どれだけ軌道が傾いているかなど、視線速度法では得られない惑星のデータを知ることができます。その星がどのようなものから出来ているかという事までわかってしまいます。

venus-transit

2012年ニュースになった「金星の太陽面通過」。トランジット法では、このような恒星の前を横切る惑星を見つけます
( Credit:NASA/SDO)

そこで、このトランジット法による系外惑星の観測を最初に行った

ダヴィド・シャルボノー博士

を第3の受賞候補に挙げたいと思います。

Harvard University's newly tenured professor David Charbonneau of the Department of Astronomy visits the telescopes atop the Science Center. Stephanie Mitchell/Harvard Staff Photographer

(博士のウェブサイトより  Credit:Stephanie Mitchell/Harvard Staff Photographer)

シャルボノー博士は1999年にこのトランジット法を用いた観測で「オシリス」という惑星の観測に世界で初めて成功しました。
その他にも、どれくらいの頻度で惑星が横切るかなどトランジット法に関する研究を行っており、数々の観測ミッションでも中心メンバーとして活躍されています。
現在までに4000個以上の惑星を観測(そのうち2330個が確認済み)できたケプラーの成果。これに繋がる貢献を鑑みて、シャルボノー博士にも受賞して欲しいと思う次第です。


まとめ


というわけで、最終的な受賞予想は

「太陽系外惑星観測に対する貢献」により
ミシェル・マイヨール博士、ディディエ・ケロッツ博士、ダヴィド・シャルボノー博士

の3氏としたいと思います!
以上、「ノーベル賞予想」第1弾でした。

はま

*1 マイヨール博士は現在ジュネーブ大名誉教授
*2 ケロッツ博士HP http://www.astro.phy.cam.ac.uk/directory/prof-didier-queloz
*3 シャルボノー博士HP https://www.cfa.harvard.edu/~dcharbon/Site/Welcome.html

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