誰もが一度は頭を悩ませたことのある「やる気」。
今回は、そんな「やる気」の姿について心理学・脳科学の知見を用い、全4回の連載にわたってその全貌を明らかにしていきたいと思います。
◆プロローグ
世の中には、「やる気」に関する書籍が溢れかえり、様々な人が多様な「持論」を持っています。
おそらく、それらは基本的に間違っていませんが、
時に、「人それぞれ」、「状況による」
という万能ワードにより、急遽水のかけ合いが始まってしまうことがあります。
なぜなら、「やる気」についてのそれぞれの意見は、
海外旅行のお供『地球の歩き方』のようなものだからです。
いくらアメリカのおいしいお店が載っていて、そこへの行き方が分かっていても、自分がアフリカにいたら役に立たないわけです。
なので、今回の連載記事では『地球の歩き方』ではなく、動機付けの原理としての「世界地図」を提供したいと思います。
「やる気」という広大な(本当に広大!)世界は、どんな地域に分かれていて、どことどこがどのように繋がっているのかを明らかにします。
自分が今どの地点にいるのかを発見しましょう!
さて、さっそく「地図」を描き始めたい所ですが、
その前に、動機付けの原理に関して確認しておかなければならないことが2つあります。
◆動機付けのダイナミズム
「数学楽しい」→「数学の問題を解く」→「解けた!うれしい!」→「やっぱ数学楽しい!」
というように、動機(数学楽しい)が行動(数学の問題を解く)を引き起こすと同時に、その結果の解釈(解けた!うれしい!)が再び動機に影響(やっぱ数学楽しい!)するという特徴があります。このような循環的な構造を捉えることが大切です。
◆動機付けの三水準
みなさんも経験上、
「勉強はしたくないけど、部活はがんばる!」
「あの人は何事にも没頭しやすいよね」
「家だと勉強する気起きないなー」
といったようなことを思ったことがありませんか?
一言で「やる気」といっても、状況によって出たり出なかったり、はたまたその人個人に一貫して見られるようなものもあります。
そのような「やる気」の性質を上手く説明するために、以下の3つの水準で動機付けを考えることが大切です。
特性レベル・・・個人のパーソナリティの一部として全般的に機能する水準(→要は、性格)
領域レベル・・・対象となる分野や領域の内容に即して発現する水準(→要は、◯◯に対する「やる気」)
状態レベル・・・その時、その場に応じて現れ、時間経過とともに現在進行形で変化する水準(→要は、気分)
それぞれの水準での動機が相互作用しながら、当人の動機付けを全体的に形作っていきます。
以上2点を踏まえて、これから「地図」を書いていく手順を説明しましょう。
◯第1部
一般に「やる気」について議論する際問題になるのは、領域レベルの動機付けなので、
まずは、ある時点における「◯◯をする動機(=理由)」を網羅するところから始めます。
そして次に、その動機によって引き起こされた行動が、結果の解釈を通じてその後の動機に影響するという「循環的なプロセス」について説明します。
◯第2部
第1部で明らかになった領域レベルの動機付けは、個々人のどのようなパーソナリティ(特性レベルの動機付け)に支えられているのかを明らかにします。
また同時に、そのような個々に特有のパーソナリティが形成されていくメカニズムを、人間の生得的な欲求と快楽原理から説明していきます。
◯第3部
最後に、刻一刻とダイナミックに変動していく状態レベルの動機付けについて、
その動機のあり方やダイナミズムを、主に感情を中心に解説していきます。
「やる気」についての研究は、過去膨大な量のものがなされており、とてもこの記事だけで書き切れるようなものではありませんが、「世界地図」をイメージする上で過不足ないよう、できるだけシンプルかつ丁寧に紹介していこうと思います。
とはいっても読み進めるのに、なかなか量が多くて大変かもしれませんが、
みなさんの今までの経験や持論が、理論的にどう説明されるのか「検証」するつもりで読むと面白いかもしれません。
ではさっそく第1部、「領域レベルの動機付け」について見ていきましょう!
投稿者プロフィール

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【専攻】教育・教育工学
【所属】東京大学大学院学際情報学府修士1年
・「記憶」や「理解」など「学習」に関わる脳内メカニズム
・「学習理論」や「教授方法」
・教育の歴史
・最近の学校教育の動向、教育格差
・EdTech
etc.
脳科学や教育心理学、社会学などの知見を活用して、教育に関わることを全般的にポストしていこうと思います!
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