光を当てるとマウスの記憶が蘇る??? ~ オプトジェネティクス入門 (前篇)

はじめまして。ドラゴン(クリックすると自己紹介ページへ飛びます)です。

所属は工学部の化学生命工学専攻。専門は生物工学(カタカナ文字だとバイオテクノロジー)です。主に日進月歩なバイオのトピックについて書いていきたいと思います。最初の記事は、神経科学で今最も熱いテクノロジーについてです!


導入編


人間の心はどこにあるのでしょうか。昔の人ならその文字通り「心臓」と答えるところかもしれませんが、現代の人なら「脳」であると答えることでしょう。

ここでは心が本当はどこにあるかについての問題は置いておくとして(個人的にはかなり気になるところですが)、脳は人間の最も大きな特徴である「複雑な思考」を生み出していることは間違いありません。しかし、その脳がどのように働いているのかについては、多くのことが未解明で、近年脳科学研究は盛んにおこなわれています。そこで今回前篇と後篇に分けて、近年の脳科学研究にブレイクスルーをもたらした「オプトジェネティクス」と呼ばれる、将来ノーベル賞が確実(?) な最先端の技術について紹介したいと思います。


21世紀は脳科学の時代???


オバマ

「Brain Initiative」という言葉をご存知でしょうか。この巨大科学プロジェクトはアメリカのオバマ大統領が主導で2013年に開始され、アメリカの脳科学研究に10年間にわたって45億ドルもの予算を投資し、脳がどのように思考し、学習し、記憶するのかという脳の働きの全体像を理解することを目的としています。しかしなぜいまこんなにも脳科学は注目されているのでしょうか。


スーパーコンピューター対チェスチャンピオン


カスパロフディープブルー

少し昔のことになりますが、1997年にチェスの世界王者カスパロフがスーパーコンピューター「ディープブルー」に敗れたことが話題となりました。一般的にはこれは「コンピューターが人間に追いついた」象徴的な出来事として語られており、現在ではコンピューター持ち前のしらみつぶしに計算する方法が通用する分野では、人間の脳はコンピューターに歯が立たないことが常識となっています。しかし、一方で人間の脳はコンピューターが苦手とする分野(画像認識、文章を理解する力等)でははるかに優れた能力を持ちます。また、コンピューターに先を越されてしまった分野でもそのエネルギー効率を考えると脳のほうがはるかに省エネであるといえます。

例えば、チェスの世界王者を破ったスーパーコンピューター「ディープブルー」のエネルギー効率と、そのスーパーコンピューターと互角の戦いを見せたチェスの世界王者の脳のエネルギー効率は一体どのぐらい違うのでしょうか。

答えは、ディープブルーは1 MW(メガワット)の消費電力ですが、脳はたったの200 W(ワット)しか消費しません。つまり脳はスーパーコンピューターと同じことを5千分の1の効率で行うことができているのです。


加速する脳科学研究


脳はこのような省エネさに加えて様々なことを学習し、記憶することができます。しかし現在のところ脳がどのようにして学習し、記憶するのか確かなことはわかっていません。こういった脳がどのようにして働いているのかの原理が分かれば、いまだはっきりとした原因が分からず治療法が存在しないアルツハイマー病、パーキンソン病や自閉症などの、脳関連の疾患の克服につながったり、脳に直接働きかける様々なテクノロジーも実用化されたりするかもしれません。また、脳の仕組みの解明は新たなタイプの「人工知能」の開発にもつながる可能性を秘めています。

このような理由から脳科学の研究は近年精力的に進められてきています。光を当てるとマウスの記憶が蘇る??? ~ オプトジェネティクス入門 (後篇)ではいよいよ、近年その脳科学研究にブレイクスルーをもたらした「オプトジェネティクス」と呼ばれる技術とそれを用いた研究例について紹介したいと思います。

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参考文献

(1)画像引用元 http://www.hydroassoc.org/president-announces-funding-for-brain-initiative/(オバマ大統領の画像)

(2)画像引用元 http://iq.intel.co.jp/chess-technology-changed-the-game/(カスパロフとディープブルー)

投稿者プロフィール

ドラゴン
ドラゴン
4月から博士後期課程1年生。工学部で生命科学の研究をしています。
化学・生物全般に興味があります。

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