そろそろ「やる気」を経験的に議論するのはやめようか。(1)

第1部


◆内発的動機付けと外発的動機付け

みなさん、「自分は◯◯についてやる気がある」と思う時、その「理由(=動機)」について考えると何が浮かぶでしょう?

「◯◯が好きだし、やってて楽しいから」

「◯◯が出来ると、周りに自慢できるから」

「将来〜〜をするためには、◯◯をしなければならないから」

他にも、様々な「理由(=動機)」が考え付くと思いますが、

そのような「動機」をいくつかのカテゴリーに分類すると、どのようなカテゴリーになるでしょう。

それを考えることで、「動機の内容」を網羅的に整理していこうと思います。

まずは、みなさんもどこかで聞いたことがあるかもしれません、

「内発的動機付け」「外発的動機付け」という分類があります。

内発的動機付け・・・興味や楽しさといった内的な欲求に基づく動機付け

外発的動機付け・・・報酬や罰といった外的な要因に基づく動機付け

これは、厳密には、目的性/手段性によって区別されます。

すなわち内発的動機付けは、楽しくてその行為をするというように、その行為をすること自体が目的となっています。

一方外発的動機付けでは、報酬を得るためにその行為をするというように、報酬という目的に対する手段としてその行為が為されます。

目的がその行為の「内か外か」ということです。

目的目標手段

しかし、外発的動機付けにおいて一概に「報酬」といっても、金銭などの物的報酬もあれば、地位や名誉といった社会的報酬など、いくつかの種類の異なる報酬の形があります。

よって外発的動機付けは、もう少し細分化することができそうです。

◆マスタリー目標とパフォーマンス目標

外発的動機付けは、「目的=目標を持った動機付け」と考えられるので、

次に、「目標」という観点から外発的動機付けの細分化を図っていこうと思います。

目標という観点から動機付けを説明した研究は多々ありますが、その中でも主要な概念として、

マスタリー目標パフォーマンス目標があります。

マスタリー目標・・・「自分の能力を向上させる」ことを目標とする

パフォーマンス目標・・・「自分の能力を証明する」ことを目標とする

マスタリー目標とパフォーマンス目標の差は、成果を評価する際の基準の違いとして考えられます。

つまり、マスタリー目標の人は、過去の自分と比べて熟達できたかという自分自身の絶対基準で評価するのに対し、パフォーマンス目標の人は、他者と比べて優っているかという相対基準で評価します。

みなさんの周りにもいなかったでしょうか?

高得点・高順位をとっていながら、全然満足そうにせず、すぐさま見直しを始める人。

一方で、平均点と自分の点数を比べては一喜一憂を繰り返している人・・・。

懐かしい教室風景ですね。

shutterstock_149406848

さらに、パフォーマンス目標は積極的or消極的かどうかで、さらに2つに分類することができます。

パフォーマンス接近目標・・・「自分の有能さを示す」ことを目標とする

パフォーマンス回避目標・・・「自分の無能さの露呈を避ける」ことを目標とする

接近目標or回避目標を持つかは、主に「自信」による所が大きいので、「自信」がない=実際に能力が低い人ほど、回避目標を持つ傾向が高くなっており、結果能力の低い人ほど悪循環に陥ってしまう状況が見られます。(詳しくは、次回説明します。)

その一例として、パフォーマンス目標と努力には面白い関係があります。

パフォーマンス目標を持つ人は、「能力を証明する」ことが大事であるため、

・努力をせず成功する→「やっぱ俺って才能あるわー♪」

・努力をせず失敗する→「まあ努力してねーし!(能力がないわけじゃないぞ!)」

と、努力をしなければ、成功・失敗どっちに転んでも能力の証明(or無能力の回避)になるという意識から「努力の差し控え」という現象が見られるのです。

(ここに、テスト前に、「俺、全然試験勉強してねー。やべー」と言いいがちな人の心理メカニズムが明らかとなったわけですが、、)

つまり、パフォーマンス目標を持ち、特に成果を出す自信がない人ほど「努力の差し控え」が起こってしまい、それによって学力が向上しないという悪循環に陥る図が垣間見えるのです。

みなさんはどちらの目標をお持ちでしょうか?

ただし、忘れてはならないのは、あくまで領域レベルでの動機付けだということ(次回以降に詳しく説明しますが、特性レベルのパーソナリティに依存するところも大きいので、領域を跨いだ傾向も見られます。)と、誰しもがそれぞれの目標を一緒に持ちつつ、そのバランスが人によって異なる(0or100ではない!)ということです。

さて、途中ではありますが、

今回はここまでということにさせて頂きたいと思います。

次回は、残りの「動機」の内容の網羅から説明を始めますが、実はまだ車輪の片側の方の説明しかしていません。

もう片輪は、「やる気」について議論される際往々にして見過ごされがちな所なので、必見ですよ!

では次回乞うご期待!

※画像引用元

http://www.doghands.com/world-map-vector/

http://c-ace.jp/blog/?paged=3

http://www.t-mouri85.net/2015/08/08/post-404/

http://www.growing-labo.com/leadership-management/

※参考文献

・鹿毛雅治(2015)『学習意欲の理論 −動機づけの教育心理学』金子書房.

投稿者プロフィール

C.ロナ
C.ロナ
【専攻】教育・教育工学
【所属】東京大学大学院学際情報学府修士1年

・「記憶」や「理解」など「学習」に関わる脳内メカニズム
・「学習理論」や「教授方法」
・教育の歴史
・最近の学校教育の動向、教育格差
・EdTech
etc.

脳科学や教育心理学、社会学などの知見を活用して、教育に関わることを全般的にポストしていこうと思います!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です