人工知能病名突き止めて患者の命救う

「人工知能病名を突き止めて患者を救う 国内初か」

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160804/k10010621901000.html

人工知能が人間の仕事を奪う、と叫ばれて久しいですが、ついにこういった事例が出てくる時代になったのかー、という感じですね。上記のニュースを要約すると、人工知能に約2000万件の論文を読ませて学習させた結果、医者にも診断が難しい特殊な白血病をわずか10分で見抜き患者の命を救った日本初の例が報告されたということです。人工知能が医療の特定の分野においても、人間を凌駕する能力を持ち、人間には救えなかった患者の命を救ったという意味において一つのターニングポイントとなる出来事なのではないでしょうか。

病状に対して正しい処方をするだけでなく、患者の心をケアするというのも医者の役割の一つですので、医者が完全にいなくなるとは全く思っていませんが、診断に人工知能の力を借りる場面は増えていくことは間違いなさそうです。 そして人工知能の性能がもっとあがれば、いつか病気の診断だけでなく、病気の原因解明もすべて人工知能が主導で行ってしまう世の中になってしまう可能性を考えると恐ろしい…。今回は、計算機が人間による診断より優れている点を説明し、計算機が医療や生命科学研究に与える影響について取り上げたいと思います。


人工知能による診断が効果的なワケ: DNAの配列情報を解析できる


さて、人工知能が医者よりも正確な診断ができるような世の中になってきたのはそもそもなぜかといえば、もちろん計算機の処理能力やアルゴリズムが向上したことがありますが、もう一つ重要な要因があります。それは、DNAに書きこまれた情報が簡単に読める世の中になったことです。 問診 例えば昔なら、医者は患者の見た目、体温、問診、各種測定の結果を元に、医師の知識と経験から適切な治療法を選んでいました。この診断を人工知能にやらせたとしても、今の世の中ほどインパクトはないでしょう。なぜなら、カルテの内容などを機械学習させようにも、入力される情報の種類が限られている上主観的な情報も少なからず含まれます。症例の説明の仕方も患者の性格によって違いますしね。人工知能より患者の気持ちが分かる医者のほうが正しい判断をすることも十分ありえます。

ところが最近は簡単にDNAの配列という客観的で情報量が豊富なデータが手に入るようになってきました。DNAというのは人間の設計図といわれており、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種類の化学物質(塩基)が80億個連鎖した文字列です。2000年初頭のヒトゲノムプロジェクトの完了によってこのヒトのDNAの中に含まれる2万個以上含まれる遺伝子の塩基配列が調べられました。   このように得られたDNAの配列=生命科学のビックデータの解析には、計算機が最適なわけです。

 

DNA

ヒトのDNAの配列がすべて読まれてから、それぞれの遺伝子の変化がどのような病気に関わっているのかが世界中の研究者によって、明らかにされており、大量の論文が出版されています。しかし、

“宮野教授によりますと、これらの分野では論文の数が膨大になりすぎて、どの遺伝子の変化が互いにどのように影響し、がんを引き起こしているのか、医師一人一 人が理解するのが不可能になりつつあります。ワトソンはこうした論文を2000万件以上読み込んでいて、数多くの遺伝子の変化がどのように絡み合いがんになるのか学習しています。”(冒頭の記事からの引用)

ワトソン君(記事で出てくる人工知能の名前) すごーい。いつか名医ホームズを凌駕してどちらが主人公かわからなくなっちゃうかもしれません。


計算機が実験の仮説を考える世の中になる可能性


こういった計算機による解析というのは、病気の診断だけでなく、それを支える基礎生物学の分野でも非常に強力なツールになりつつあります。遺伝子のATGCの配列のような生物に関する膨大なデータを、情報科学の手法で解析する研究はバイオインフォマティクス(生物=bio, 情報=informatics)と呼ばれる最近ホットな分野です。バイオインフォマティクスの守備範囲は、DNAに書きこまれた遺伝子の情報にとどまらず、タンパク質の発現のパターンも含み、今後はタンパク質やDNAへの小さな目印(化学修飾)のパターンも網羅的に解析できるかもしれません。 そう考えると、生命科学の今後の流れとして、仮説がない状態でいろんな種類の生命科学の大量なデータを人工知能に解析させて、得られた一見よくわからない結果に人間が知恵を絞って説明を加えるという構図が見られることも考えられます。

計算機

分かりやすく言い換えれば、例えば原因が分かっていないXという病気の人とそうでない人の様々な情報を計算機により比較することで、「Aという遺伝子の変化と、Bという遺伝子のある化学修飾の状態がXという病気に関連している」という結論が得られたとします。ただ人間側はAとBがどのようにしてXを引き起こすか見当もつかない可能性があります(もちろん容易に想像がつく場合もあるはずです)。そうした場合、研究者が一斉にAとBがXを引き起こす原理を探し出すことになります。つまり、今まで研究者の経験や勘に基づいて立てられていた実験の「仮説」を人工知能が作り出すわけです。

といったことは、ただの妄想なのであまり真剣にとられても困りますが、そんな世の中になったらなかなかカオスですね。情報科学者が作り上げる精度の高い仮説を元に、生物学者が夜を徹して実験する未来が待っていると考えると背筋が凍りそうです(笑)今からでも情報科学の勉強しなくては…

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投稿者プロフィール

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4月から博士後期課程1年生。工学部で生命科学の研究をしています。
化学・生物全般に興味があります。

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